<引用元:ナショナル・レビュー 2020.4.25>マシュー・コンティネッティ氏による論説
中国の脅威に立ち向かうには新たな機構と同盟が必要
手段を持たずに何かに打ち勝つことはできない。だが米国はそれをやろうと固く決心しているようだ。
中国を「責任ある利害関係者」として世界経済に統合しようという米国の試みは失敗した。中国の経済はさらに国家統制主義的になり、外交政策では弱い者いじめが強まり、野望は20年前よりずっと並外れたものとなった。中国は米国のリーダーシップに直接盾突くことはなかった。国際機関の性質を内部から変化させたのだ。
米国主導の国際秩序を構成する多国間制度はしばらく前から衰退してきている。コロナウイルスで悪化は加速した。NATO、国際連合、欧州連合、世界貿易機関、世界保健機関―それらは無反応で、無責任で、分裂し、士気阻喪し、機能していない。世界はずっと危険な場所になった。
我々は、国連総会、そして事務局の様々な委員会の独裁的な支配に慣れている。ロシアや中国が安全保障理事会の決議に拒否権を行使しても、目をしばたたく者は誰もいない。パリ協定の一環として中国に対して行われた譲歩は、あまり宣伝されなかった。世界貿易機関が世界第2位の経済大国を「発展途上」国として扱う事実も。だがWHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長が、コロナウイルスが世界中に拡大する中で北京のために行った難癖と隠蔽は、無視できない。漂流、困惑、混乱の結果となった。
選択肢は3つある。第1は既存の構造を再生するために制度の内部に働きかけることだ。第2は代替となる機関を設立すること。第3は何もしないことだ。
トランプ大統領は1と3の選択肢を混成させた方法を試みている。が、ひねりを効かせてもいる。他の人なら優しい言葉や静かな外交を用いて改革と協力を引き出そうとするところだが、トランプは、そもそも米国作ったその機関に強いて自分たちの責任を果たさせるために彼らに敵対している。トランプはNATO加盟国にもっと防衛費を増やすよう威嚇した。ブレグジット(Brexit)を応援し、EUの内部批判者を支持した。WTOの調停メカニズムを機能不全にし、完全な脱退をちらつかせている。
それがトランプの約束した「アメリカファースト」外交政策だ。そして入り混じった結果が出ている。NAFTAは置き換えられた。NATO予算は増加した(今のところ)。メキシコは亡命希望者の裁定が下るまで彼らを自分たちの国境内で待たせることに合意した。中国は「第1段階」の防衛協定に署名した。
だが代償もある。同盟国は要求に応じるかもしれないが、恨みは深まる。同盟の基盤は弱まる。予測不可能なことから不安や警戒が生まれる。けれども余りにも長く継続すれば、優柔不断さと無気力さを伝えることになる。敵は探りを入れ始めている。航空機に異常接近し、原油価格を暴落させ、米国兵士への爆撃を再開し、米国海軍艦艇に嫌がらせを行い、南シナ海で貨物船の尾行を始めている。
民主主義国は内向きだ。NATOは沈黙、EUは分裂、米国は気を取られ動揺している。中国はこの戦略的空白に付け込んだ。パンデミックの責任を米国に擦り付ける世界的な偽情報活動に着手した。工作員は、トランプ大統領が全国的な封鎖を実施して州兵に取り締まりをさせようとしているとして、米国の携帯電話に下品でパニックを誘発するメッセージを送り付けた。その外交上の「戦狼」は、外国政府が北京にとって都合の良い話に異議を申し立てる時はいつでも、党の方針を実行する。
中国のプロパガンダはかつて、成果を増強し批判を抑制していた。今は直接海外の敵を攻撃する。その戦略は、「特定の考えを推進するというよりも、情報に対する国民の信頼を損ない、事実の共通の理解が定着することを防ぐために、―米国人の中でも―疑念、不和、混乱の種を蒔くことを目的としている」と、ローラ・ローゼンバーガーはフォーリン・アフェアーズで書いている。それは成功している。
中国は無敵ではない。世界に隠したコロナウイルスの経済の荒波から利益を手にしている。中国の勢力の拡大について大喜びする隣国は1つもない。国内の政治状況は不安定かもしれない。だが地政学的優位のためにパンデミックを利用するスピードは並外れたものだった。医薬品と個人防護用具の流通でいかにえこひいきしているか、友人のテドロス事務局長のために新たなカネの流れによっていかにして代理を務めたか見てみるといい。中国の台頭に立ち向かうには、「事実の共通の理解」とそうした事実を共有するパートナーが必要だ。近頃米国には両方が欠けている。
何としてでも中国と共謀したWHOを罰しなければならない。だが同時に、創設者が意図した優れた仕事を行うための別の仕組みを立ち上げるべきだ。同盟国に約束を果たすよう要求するならすればいい。だが同時に、同じ志を持った同盟国の協力関係が、最初の冷戦の成功に不可欠だったことも認識しなければならない。今は、権威主義の監視国家に自由な民主主義を対抗させる21世紀の現実を反映した、新たな機関を設立する時だ。米国のリーダーシップなしに過ぎ去る一瞬一瞬が、「五星紅旗」の太陽が沈まない世界へと我々を近づけるのだから。
コンティネッティ氏はアメリカン・エンタープライズ研究所の研究員