<引用元:デイリー・シグナル 2019.10.3>ハンス・フォン・スパコフスキー氏による解説
ジョージ・オーウェルの小説「1984年」のプロパガンダ、監視、そして検閲が今、ニューヨーク市にやってきた。
同市の人権委員会は最近、雇用者、(ホテルを含む)住宅供給者、法執行機関が「不法外国人」という言葉を使用することを「差別的」だとして禁止する新たな法的執行ガイドラインを発表した。違反者は法外で過酷な罰金――違反ごとに最高25万ドルを科せられる。
言い換えれば同市は今後、これまで最高裁判所を含めて、連邦移民法と多数の判決の両方で使用されてきた正しい法律用語を使う者は、誰であっても検閲して罰するということだ。
これは憲法修正第1条に対する言語道断の違反だ。
オープン・ボーダー擁護者と不法外国人支持者のグループは、長年プロパガンダ戦争をしかけて来ており、報道機関と政府職員を説得して「不法外国人」という用語を捨てさせることに大きな成功を収めてきた。
彼らは「未登録移民(undocumented immigrant)」という婉曲表現で置き換え、我々の移民法を破ってこの国に不法に入国する外国人の違法行為を偽装させ隠蔽したいのだ。
ニューヨークの委員会がガイドラインで望ましい言葉として使用する「未登録移民」という用語は、法律を無視してでっち上げられた用語だ。
以前のデイリー・シグナルの記事で述べたように、「不法外国人」は正しい法律用語であって、正確な法律専門用語を使用しているのに「侮辱的」だと言うのは理にかなわない。
連邦地方裁判所のアンドリュー・ヘイン判事は、バラク・オバマ大統領の「米国人と合法的永住者の親のための延期措置」、いわゆるDAPA制度に対する差し止め命令を出した時に、このことをこう説明した。
「裁判所は、「不法外国人」という言葉を侮辱的と受け取る一部の住民がいることも理解している。裁判所がこの用語を使用するのは、最高裁判所がこの分野の法律に関する最新の判決で使用している用語であるためだ。」
例えば8 U.S.C. §1365など、不法外国人を収監する州に対して連邦政府が行う補償を扱う連邦移民法では、タイトルと法規自体の中で「不法外国人」という用語を使用している。不法外国人とは、誰でも「非合法的に米国にいる」者と定義されている。
事実昨年、司法省は検察官が説明の中で正式な法律用語を使用するよう促した。つまり「不法外国人」という用語を使うということだ。検察官の語彙から除去するように命じた問題の言葉の中には、「未登録外国人」という用語があった。
ではニューヨーク市は何をしようとしているのだろうか?連邦法と判決の正しい法律用語を使用する者は誰でも罰するというのだろうか?
このニューヨーク市による行動は、今のところ市が法的に実行できる範囲外であり、修正第1条と常識の全く根本的な違反であって、「1984年」のような本にある架空の策略ぐらいしか想像できるものがない。残念ながら架空の話ではない。
人権委員会は、「不法外国人」という用語が「人をおとしめ、屈辱を与え、あるいはその気分を害する意図」を持って使用される時に、違反となるだけだとすることで、この禁止が及ぶ範囲を制限しているとされている。
だがこの想定された範囲は本当の意味での制限ではない。というのも、委員会は全く同時に外国人(alien)や外国人としての身分(alienage)という言葉の使用だけでも「侮辱的」であり、「移民を『他者』扱いすることで否定的な含みを伝え、非人間的に扱う恐れがある」としている。
人権委員会が「不法外国人」という用語の使用を、人をおとしめ、屈辱を与え、怒らせるものだとみなさない状況があると、本当に思う人はいるだろうか?
そう思う人ならおそらく、ニューヨーク市で手頃な価格の高所得者向け住宅を簡単に見つけられるとも考えるのだろう。
委員会は、個人の「実際の」移民としての立場に関して連邦移民局に電話することも移民ハラスメントにしている。だから雇用者が連邦政府に連絡することで、従業員が不法に国内にいることを発見すると、市の条例に違反したことになる恐れがある。
その上、不法外国人は違反について人権委員会に訴えることができる。ガイダンスによると、「経済的、感情的苦痛による損害」を含めた救済手段は、「従業員の移民の立場にかかわらず、(条例の下で)得られる」。
言い換えると、不法外国人は、雇用者や大家が自身の法的(いや、不法の)立場について言及する際に正しい法律用語を使用すると、訴えることができるのだ。
ニューヨーク市では不法外国人に住宅を提供することを断るのは違法だ。ある米国市民がアパートに不法外国人を住まわせようとしているとして、大家がそれを知りながら、その米国市民にアパートを貸すのを断ることを違法とする「連想差別」についての規定もある。
だからあなたが人身取引業者で、密入国させた不法外国人を自分が借りているアパートに住まわせていても心配ない。大家が発見してもそれに関して何かすることは禁止されるのだ。
連邦法の下では、この国で市民でない個人はみな外国人だ。また許可なくこの国にいる外国人はみな、不法に滞在している。これで話は終わりのはずだ。だがニューヨーク市では違う。
アントニン・スカリア判事はかつて、「日ごとに、裁判のたびに、最高裁判所は私の認めない国の憲法を策定するのに忙しくしている」と述べた。ニューヨーク市の人権委員会は同じことに忙しくしている。
(ハンス・フォン・スパコフスキーは、公民権、民事司法、憲法修正第1条、移民、法の支配、政府改革といった、幅広い問題の権威であり、ヘリテージ財団のエドウィン・ミース三世法律司法研究センター上級法学研究員と同財団の選挙法改革イニシアティブ部長を務める。)