<引用元:ポリティコ・マガジン 2019.3.6>National Review編集、リッチ・ローリー(Rich Lowry)氏による寄稿
国境の危機についての身の毛もよだつこの報道によって、大統領が国境の危機を「でっち上げている」という話には、待ったがかかっている。
米国関税国境警備局が出した最新の国境での逮捕者数は、憂慮すべきものであり、ドナルド・トランプ大統領の恐ろしい空想を除けば国境は統制下にあるのだ、という世間一般の怠惰な通念に風穴を開けるものだ。
国境の壁をめぐる一連の争いの中で、メディアと進歩主義のコメンテーターは、2000年代の最高値から逮捕者数は減少しているのだから、国境は事実上しっかりと統制されているのだと話していた。大統領に対する他のほとんど全ての批判者と共に、スティーブ・シュミットは、「アメリカ合衆国大統領は、この危機をでっち上げようとしている」と言って憤慨した。
反トランプだからといって、すまない、自分は間違っていると言う必要があるということにはならないわけで、最新の証拠が、国境危機の考えを無頓着にはねつけた人に強い印象を与えることはないだろう。だがそうあるべきなのだ。
先月、7万6千人以上の移民が、南部国境を越えて逮捕された。2月としては10年以上の間で最高であり、トランプ政権でも最高を記録する月となった。逮捕者数は、バラク・オバマ大統領の下で国境での移民急増があった2014年のどの月よりも上だ。ところがその当時、危機と呼んでも誰も問題にする人はなかった。
全ての兆候が、事態が悪化していることを示している。例えるなら、オルバーン・ヴィクトル――厳しい国境取り締まりを支持するハンガリー首相――が大統領であるのに、アンゲラ・メルケルが最も寛大だった時に匹敵する移民増加を、まさに経験しようとしている可能性があるのだ。
危機などないという解説とファクトチェックは、国境での逮捕者の変化する性質を見落としたか、意図的に無視したものだった。
確かに、2000年代には合計するともっと逮捕者が多かった。だがそれは異なる人々であり、メキシコ出身の成人男性が圧倒的で、国境を何度か越えようとして、逮捕されると確実に送還されていた。現在我々は、逮捕しても送還しない。
移民は、メキシコではなく中米の国からより多数が来ており、おもに家族と子供たちだ。驚くべき変化として、2012年では逮捕された移民の10パーセントが家族と子供であったのに、ここ数カ月では61パーセントになっている。
非隣接国の移民と家族連れへの対処のルールにより、迅速な送還や拘束がほとんど不可能になっており、設備は独身男性を念頭に建設されたものであることは言うまでもない。
こうした移民を送還したり、国境を越えてから拘束したり、あるいはいったん内部に入ってから排除したりする仕組みはない。入国を食い止めきれない一部の移民が急速に増加するのには理由がある。
傾向としてこうした移民は、バスでやってきて、徒歩の行程は数日に減らされ、大人数のグループで移動する。ここ数カ月で、100名以上から成る70のグループが現れた。そうしたグループは昨年は13だけで、その前の年は2つだけだった。彼らがたやすく自首するのはそうやって入国できると知っているからだ。
制度は限度を超えている。ニューヨーク・タイムズによると、テキサス州エルパソで移民に住居を提供するグループは、2月に1週間で3,600人の移民を保護下に置いた。40年前にこのグループが創設されてから最大の数だ。
移民がいったん到着すると退去させられる可能性は低い。必要な拘置施設があっても、ICE(移民税関捜査局)の予算は限られており、もっと緊急を要する優先事項もあるのだ。
言うまでもなく、渦中の国境危機は、国境の取り締まりに熱心な大統領にとって腹立たしいものであり、そのためにトランプは激しい活動をしてきた。
大統領は、成人の不法移民を全員起訴しようとしたが、家族の分離を引き起こすことについて(無理もない)非難を浴び、断念を余儀なくされた。メキシコを説得して支援させようとし、一部は成功したものの、それでも多数の移民がメキシコを通ってやって来ている。難民政策を引き締めようとしたが、裁判所で阻止された。移民対処のルールを議会に修正させようとしたが無駄な努力に終わった。そしてもちろん、壁を建設しようとしている。
トランプの話ぶりは大げさで、壁に対する集中は偏執的すぎるかもしれないが、このことに対処しようという衝動は全く正しいものだ。
まず、基本的な主権についての問題がある。多数の移民――おそらくは、いずれ人口の相当な部分となる――を、3カ国、4カ国の外国から受け入れようとするなら、気付かないうちにいつの間にかそうなるというのではなく、意識的な政策としてそう決定すべきだ。
それから、同化と合法性の問題がある。中米からの移民のように、教育水準が高くない移民は、同化に苦労するし、その上法的地位を持たないことになる。またも恩赦を必要とすることになる、いわゆるドリーマー(訳注:幼少期に親に連れられて不法入国した移民)予備軍を我々は追加しているのだ。
最後に人道問題がある。家族連れの移民は治療を必要としているが、我々はその準備が十分にできていない。圧倒的な数でなかったなら、保護下の移民の世話がもっとしやすいだろうし、比較的少数の正当な難民申請者の要求に集中できるだろう。
しかし我々は行き詰まっている。ニューヨーク・タイムズは先日、トランプが「あらゆる証拠に反して国境に危機がある」と宣言したと社説を書いた。その後同紙は、「1カ月に76,000人以上の移民流入で国境は『限界点』に」という見出しで新たな記事を出した。
両方の記事が正しいというのはあり得ない。危機をでっち上げているとするなら、トランプが正しいと認めるのを恐れて危機を無視しているのだ。