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ロシア起訴:なぜ今?(解説)

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<引用元:ウォールストリート・ジャーナル 2018.7.16>元司法長官マイケル・ミュケイジー氏による解説

ハッキングの核心は大統領となるクリントンを傷つけることであり、トランプ大統領を当選させることではなかったことが判明している

先週ロシアの12名の軍情報局員が起訴された。2016年の大統領選挙中に民主党全国委員会とその他のサーバーをハッキングしたという罪状だが、その発表タイミングとハッカー自身の仕事ぶりについては疑問視される。ニュースが発表されたのはトランプとプーチンの首脳会談の前日だった。なぜその日に?

大統領は外遊前に起訴について聞かされた。ところが発表による効果は明らかに、会談に対する見識にさらなる疑問を呈するということであり、ことによると議題を方向付けることであった。特別検察官のやる仕事でもなければ司法省の他の誰の仕事でもない。司法省には長年続いている方針がある。直接この件に当てはまるものではないが少なくとも類似するものだ。選挙間近の候補者は、起訴によって選挙結果に影響を及ぼすことのないように、緊急の必要がなければ起訴すべきではないという方針である。一般原則が当てはまるだろう。つまり検察官は自分たちの行動が、刑事司法以外の重大な出来事に対して及ぼす影響を考慮し、十分に控えめに行動すべきであるということだ。

法執行機関の観点からするとこれらの起訴には何ら緊急性はない。12名の被告は全員ロシアにいるため、米国の法定の内側を見ることになりそうな者はいない。

別の戦略ならあり得る事だった。2008年にロシアの兵器ディーラーであるビクトル・ボウトは、米国麻薬取締局捜査員によるおとり捜査でタイにおびき出されて逮捕された。ボウトは法執行機関では「死の商人」、また極秘起訴の被告として知られていた。タイは非常に称賛すべきことに釈放しろというロシアの圧力に抵抗した。それどころか彼らは条約義務を果たし、米国の身柄引き渡し要求を受け入れた。

先週の起訴の目的は被告を訴追することではなく、「名前を公表して名誉を傷つける」ことだったという話が議論されている。彼らの名前は公表され、所属する軍の情報部隊も公開されたが・・・名誉は傷つけられただろうか?英国に亡命したロシア人のアレクサンドル・リトビネンコは、2006年にロシアの核施設のポロニウムによってロンドンで毒殺された。リトビネンコは、1999年に起きたモスクワのアパート爆破事件に直接の責任を負っているのはウラジミール・プーチンであり、爆破事件はチェチェン侵攻の口実として利用されたと訴えていた。

アンドレイ・ルゴボイは暗殺をほのめかし、英国から逃れてロシアに帰国した。ロシア政府は英国からの身柄引き渡し要求を拒否しただけでなく、プーチン氏はルゴボイに「国に対する貢献」を理由に勲章を与えた。ルゴボイ氏は2007年にロシア議会の議員の座に就いた。そのような記録に基づくと、12名の起訴されたハッカーは排斥されるのではなく、重要人物扱いされることになる可能性のほうが高い

また思い出して欲しいのだが、適切な法令の下で特別カウンセル(検察官)を任命した唯一の根拠は、大統領選挙で不正行為があったという疑惑に対する司法省の捜査で利益相反と特別な状況が示されたという点だった。それ故にロバート・モラーを最初に任命した命令では、「ロシア政府とドナルド・トランプ大統領の選挙陣営関係者との間のあらゆるつながりと協調関係」を捜査するよう指示している。これまでに数多くのロシア人が陣営と関係する犯罪で訴えられており、ロシアやトランプ陣営とは無関係の犯罪で訴えられた「陣営の関係者」が何人か出ている。「つながり」や「協調関係」は全く罪に問われておらず、示唆されてもいない

次に訴えられた罪のことだが、今回の12人のロシア人被告が有罪だとするとなぜ彼らはそのようなやり方で実行したのだろうか?

目を見開いて驚く「ミスター・サイエンス」的な口調で報道されることが多いにもかかわらず、起訴はロシアの最先端のインテリジェンス能力を描き出してはいない。被告全員がロシアの中心的な軍事情報機関であるGRUのメンバーだと言われている。その大部分を構成するのは元特殊部隊タイプの人物であり、プーチン氏の古巣であるKGBの後継機関SVRにいる、もっと高度なライバルからは見下されている。起訴状に描かれているように彼らの行為は明らかに、米国情報機関によって極めて詳細に見抜かれていた。GRUのフィッシングの企ては広範であったものの、SVRの能力と比較すると原始的だった。

なぜSVR出身のプーチン氏が、GRUに極秘とされる任務を与えるのだろうか?これは選挙をドナルド・トランプの方に揺さぶろうとする真剣な試みだったのか?

ハッキングの時点では事実上誰もトランプ氏に勝算があるとは見ていなかった。プーチン氏は悪党だが無鉄砲ではない。負けが確実な人間にいちかばちかの賭けをするとは思えない。むしろ、傷物の大統領となるように新大統領となるのが確実な人間を困らせようとするだろう。

なぜフィンガープリントを残すのだろうか?目標が損害を負わせることだけであるなら、新大統領は損害を受けるだけでなく憤慨してしまう。表記ミスのある「リセット」ボタンで楽しそうにポーズを取っていた人でも、機嫌を悪くするだろう。(訳注:ヒラリーが国務長官時代に米露関係を「リセット」することにちなんで、ロシア外相との会談でリセットボタンを渡したが、そのロシア語の綴りが間違っていた。)

ポイントは単に損害を負わせることだけではなく、警告を送ることであっただろう。ヒラリー・クリントンが正式に許可されていない無防備なメールサーバーを使用したことに対するFBIによる捜査について、司法省監察官がまとめた報告書を吟味して欲しい。捜査局はサーバーが検知されずに侵入される可能性が十分にあったと結論付けていたことが分かる。またGRU局員にハッキングされた人の中にはそのサーバーについて承知しており、自分たちの送っていたメールの中で記述している者もいたのだから、ロシアもそれに気づいていたということも思い起こして欲しい。SVRが検知されずにハッキングする能力を持っていたのは確実だ

クリントン氏が引き渡さなかったメールは約30,000通あり、それらは個人的なもので日課のヨガの事やチェルシーの結婚式の事などつまらない内容だと主張している。もしそうではなく不利な情報が含まれていたなら――例えばクリントン財団の資金集めについて――、新大統領はロシアが陰で紐の先に剣を吊るした状態で就任していただろう。

大統領やその側近がロシア政府に有利になるように犯罪を犯したかどうかに対する捜査のドラマを見る時は、可能性だけではなくもっともらしさに留意するのが有益であるようだ。

ミュケイジー氏は米国司法長官(2007-2009)と米国連邦地裁判事(1988-2006)を歴任した。

(※強調フォントは当サイトの編集による)

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