<引用元:ニューヨーク・ポスト 2018.8.18>マイケル・ウォルシュ氏による論説
約20年間中東で戦略的に明確な目的を欠く軍事行動が行われてから、トランプ政権はもっと賢い新たな戦い方を取ることに決めたようだ。つまり、復活した米国の経済力を関税、制裁、貿易協定の形で展開するということだ。
1970年代の原油禁輸措置を皮切りに、外国の敵対国はいつも米国に対して経済戦争を展開してきた。ニクソン、フォード、カーター時代の激しいインフレは、米国経済を混乱させたガソリン価格高騰によって悪化した。だが湾岸諸国に抵抗する代わりに、レーガンから続く大統領たちは彼らを甘やかす以外ほとんど、あるいは全く何もしなかった。その湾岸諸国はやがて、米国の消費者を背景に鼻持ちならないほど豊かに成長していた。
米国の製造業と雇用が海外に向かう中で、ペルシャ湾周辺と中国に華々しい都市が興った。2002年3月、鉄鋼企業の倒産が広がるのを受けて、ジョージ・W・ブッシュは鉄鋼輸入に関税をかけたが、欧州との大規模な貿易戦争の脅威を受けて年末までに方針転換した。オバマは2009年から2012年に中国製タイヤに35パーセントの関税を掛け、約1,200の米国の雇用が守られタイヤ生産が大幅に増加する結果となった。しかし経済学者は、消費者にとっての価格が上昇し、長い目で見ると小売業の雇用が損なわれたと訴えた。
トランプは直近の雇用統計を裏付けとして(大統領は17日に、就任以来製造業で40万の新規雇用が生まれたと豪語した)、利益がリスクを上回ると判断している。歴史はトランプの味方をしている。関税はかつて我々の国内政策と外交政策にとって不可欠な要素であり、ワシントン、リンカーン、テディ(セオドア)・ルーズベルトも採用した。TR(セオドア・ルーズベルト)は1902年の一般教書演説で「関税は製造業者の利益になる」と述べた。
関税、財政、金融政策は外交上の用途を持つこともある。現在、米国の好景気によってトランプ政権はついに、外交的な、あるいは軍事的な行動の非致死的な代替手段として関税と制裁の圧力を振るっている。
- イランでは、トランプがオバマの核合意から5月に離脱した結果、リアル(通貨)が40パーセント下落している。米国はイランがドルと金で金融取引を行う能力を妨害しており、自動車と民間航空業界に大きな打撃を与えている。まだ先のことだが11月には石油と金融にもっと手厳しい制裁が課される。イラン経済の急降下の結果として、同国の反抗的な若者が大挙して、政権をやがて倒すのではないかというような抗議運動を展開しており、トランプの行動によってそれに拍車がかかる可能性がある。
- 米国にとって第1の地政学的な挑戦者、中国では、関税をかけ大規模な貿易戦争の恐れがあるが、トランプの取り組みは最近アメよりもムチとなっており、中国の共産党指導者は狼狽しトランプがそれを実行するほどに常軌を逸しているのではないかと思い始めている。中国元は4月以降、ドルに対して9パーセント下落し、株式市場は低迷している。ところが反抗的な発言とは裏腹に、米国との経済戦争の可能性は、中国首脳陣が現在望んでいるものではない。利益につながる米国市場へのアクセスの制限を受ける余裕はないからだ。だが成長と消費はどちらも低迷しており、今や一般の中国人ですら終身国家主席の習近平を公然と批判している。
- 一方トルコでは、取るに足らない独裁者のレジェップ・エルドアンがオスマン帝国の失われた栄光を蘇らせようとしているのだが、同国の通貨のトルコ・リラは今年45パーセントの価値を失った。これは米国がこのイスラム教政権に課した関税と制裁の直接的な結果だ。それは1つには米国福音派のアンドリュー・ブランソン牧師を、トルコがスパイだと主張して拘束を続けていることに対するものでもある。エルドアンは「報復」として米国の電気製品のボイコットを発表した。せいぜい頑張ってくれ。
トルコの経済が溝にはまり込めば、イスラム教国として地域の支配的な権力となろうというエルドアンの望みは、打ち砕かれるだろう。
同様にヒズボラを代理としてイスラエルと米国に武力を放出するシーア派イランの力も、シリアの独裁者、バッシャール・アル・アサドに対する支援と同様に、経済的にもたらされたイスラム宗教指導者の衰退によって無効化されるだろう。規模を拡大すると、新たなイランの革命によって国際テロリズムに対して打撃をもたらし、地域にいる重要なロシアの同盟国を追い出すことになるだろう(たとえ石油市場を一時的な混乱に陥れたとしても)。
一方中国は、主要な貿易相手を大胆にも完全に遠ざけずに南シナ海で力を働かせて、米国にそむきながら国際的な金融の安定化を求めている。中国は米国が貿易戦争を始めることは決してないと確信していたが、トランプが彼らの通貨操作と不正な貿易慣行を絶えず激しく非難するのは、最初から真剣だったのだと今理解している。そしてトランプが口にする経済力に今力を入れているということを。
ウォールストリート・ジャーナルは北京のある教授がオンラインのエッセイに書いた言葉を引用した。「国中の人々が、自分たちの個人の安全だけでなく国が向かっている方向性について、強い疑念と高まる不安を再び感じている」きっと彼だけの話ではないはずだ。
(マイケル・ウォルシュはPJメディア並びにAmerican Greatnessの寄稿者であり、作家、脚本家でもある。新しい著作「Fiery Angel」が現在発売中)