<引用元:デイリー・シグナル 2017.12.6>(オピニオン)
トランプ大統領は12月6日、エルサレムをイスラエルの首都として認めるという選挙公約を守り、米国大使館をテルアビブから最終的にエルサレムへと移転するための計画を策定するよう、国務省に指示した。
長い間待った末、(イスラエルは自国の首都を選択することを許されない世界で唯一の国であるという)歴史的に不当な扱いに対して象徴的な取り組みがなされた。またトランプ氏が行ったのは、米国の主権国家としての権利を行使して緊密な同盟国の首都を認め、自国の大使館の場所を選択したということでもある。
近年、多くの国がエルサレムをイスラエルの首都として認めることを拒否することが、イスラエルを非合法化する国際的な運動に不可欠なものとなっている。
イスラエルの主権と首都に対する歴史的なつながりを認めることで、大統領はこの運動に対する目覚ましい反撃を行っただけでなく、イスラエルとアメリカの緊密な関係の重要性を再確認した。
大統領の発表は、長い間歴史的に異常であった状態を正すものだ。つまり、米国はパレスチナとの外交関係を持つためにエルサレムに総領事館を置いていたが、エルサレムにイスラエルのための大使館はなかった。
大使館を移転するという約束は、すでに米国の長年の政策であった。議会で党派を超える過半数の投票で、1995年のエルサレム大使館法案が可決された。1999年までに米国大使館をテルアビブからエルサレムへ移転させることを求めるものだったが、歴代の大統領は国家安全保障的な見地から実施を差し控えてきた。
以来すべての大統領は、激しい非難を招き、国益が脅かされ、イスラエルとパレスチナの紛争の最終的な和平の見込みが損なわれることを恐れて、権利放棄に署名してきた。
しかし、オスロ合意はいずれにしても行き詰まった。それは主としてパレスチナのテロが続いたせいであった。パレスチナ側はしばしば約束を破っていたが、その約束と引き換えにイスラエルが譲歩することはますますリスクが高くなっていた。そのような中で、テロによってイスラエルの譲歩への意欲は削がれてしまった。
中東では良い行いが必ず罰を受ける
大統領は、計算されたギャンブルをしようとしている。つまり、パレスチナと他のアラブ諸国の首脳が、イスラエルと米国との対立をエスカレートさせることよりも、和平合意の交渉、過激主義の抑制、そしてイランを抑制するための協力についてもっと関心を持つようになるということだ。
米国政府は、大統領のエルサレム声明は和平交渉を排除するものではなく、東エルサレムに対するパレスチナの主張を否認するものでもなく、あるいはパレスチナの国家設立を度外視するものでもない、と明確に述べた。
その上エルサレム声明は、エルサレムにあるイスラム教の宗教的な場所に対する米国の政策を変えるものではなく、それはヨルダン政府の管理下に置かれるものだと強調した。これが重要であるのは、それらの場所を管理下に置くことは非常に感情的な問題であり、反イスラエルの過激主義者がイスラエルに対する暴力を扇動するのに利用してきたからだ。
しかし、イラン、ハマス、ヒズボラ、アルカーイダ、IS(Inlamic State)、そして他のイスラム主義過激運動は、エルサレムの問題に乗じて米国とイスラエルに対する反対運動を駆り立てるだろう。このことで米国のアラブ同盟国が動揺し、これらの勢力と戦うために表立って米国に協力しようとする意欲が削がれるという危険性がある。
また、エルサレム声明によって厄介者たちが反アメリカのデモを動員し、ことによると暴動を引き起こす可能性もある。テロリストも、既に米国やイスラエルに対していずれにしても攻撃を実行しようと思っていても、それをその口実として利用するかもしれない。
現実を認めることが和平のチャンスを生む
大統領は、協議された調停とは相容れないエルサレムの最終的な地位について結論を下すことなく、(エルサレムはイスラエルの首都であるという)現実を認識した。
それでもなお、大統領の声明は、短期的にはイスラエルとパレスチナの和平交渉を中断させることになる可能性がある。しかし、その交渉は長年の間停滞してきたのだ。
イスラエルとの和平に完全に反対している反イスラエル、反西側のイスラム教国家とイスラム教運動は、この動きの持つ意味を故意にゆがめ、プロパガンダの目的に利用するだろう。
パレスチナ自治政府が、大統領のエルサレム声明について故意に誤った解釈をすることを選択するなら、自身の権利と主権を認める可能性のある和平合意に達するよりも、イスラエルの権利と主権を否定することのほうに関心を抱いていると表明することになる。
上の通りとすれば、パレスチナは平和のための誠実なパートナーではなく、紛争を永続化させてパレスチナとイスラエルの人々に大きな犠牲をもたらす、古くからのゼロサム的な思考にとらわれたままであるということになる。
トランプ氏の声明は、ある条件では、長期的には肯定的な影響を与える可能性がある。つまり、パレスチナと他のアラブ諸国首脳に衝撃を与えることで、イスラエルの存在を誠実に受け入れて平和条約に調印するのに長い時間をかければ、それだけそのような条約から得られるものも少なくなると認識させるのであれば。
結論を言えば、トランプ氏は長い間法律で定められ、議会の党派を超えた大多数が支持した政策を実施するために行動したということだ。
トランプ氏のエルサレム声明は、短期的には和平交渉を困難にし、アラブの同盟国との協力関係を損なうかもしれないが、現実主義を反映したものであり、長期的には米国の政策とアラブの思惑に利益をもたらす可能性がある。
著者:ジェームズ・フィリップス(ヘリテージ財団、ダグラス&サラ・アリソン外交政策センター、中東問題上席研究員)