先週末からの、オバマ大統領がトランプに対する盗聴を命じたとするドナルド・トランプの主張は、トランプのアドバイザーとロシア政府とのつながりに対する継続中の捜査に関して、答えよりも多くの疑問を生み出した。
伝説的ツイートの中でトランプは、選挙の勝利前にオバマ大統領が「トランプタワーで自分の『電話を盗聴』させた」ことが「判明した」と主張した。
「何も見つかっていない!これはマッカーシズムだ!」とトランプは訴えた。
それでは何が起こっているのだろうか?以下はすべてトランプのツイートによって生じた疑問だ。
トランプはどこでオバマの盗聴のことを聞いたのか?
ホワイトハウスは、トランプがどこでこの情報を得たのかについて明確な説明を渋っている。彼に監視のことを知らせる情報機関職員から報告を受けたと推測する者もいる。しかし、最も可能性のある説明(これを裏付けるホワイトハウスの匿名職員もいる)は、トランプがブライトバートで読んだ記事に反応したのではないかということだ。
金曜日に出されたブライトバートの記事は、保守系のラジオ司会者であるマーク・レビンが、オバマはトランプを「スパイ」していたと木曜日に伝えた主張を焼き直したものだ。レビンの主張は、トランプ陣営の元アドバイザーとロシア政府職員との間で、選挙に影響を及ぼすための共謀があったのではないかという問題に対する、FBIの捜査についてのニュース記事に基づくものであった。
その捜査は、電子的監視と電話の傍受を通して得られた情報に基づいていると言われているが、誰が盗聴されていたのか、つまりトランプか、トランプのアドバイザーか、またはそれ以外の人物であるのかは不明確だ。盗聴の令状についてどのような証拠があり、その令状を取り巻くものは何か?
FBIがトランプ周辺の誰かの盗聴のための令状を取得したという話は、Heat StreatのWebサイトで11月7日に最初に報道された。
反トランプ的な傾向の強いイギリスの元政治家のルイーズ・メンチは、FBIはトランプ関係者に対する監視行為のためのFISA(外国情報監視法)の令状を6月に申請していたと報道した。
しかし、メンチによるとその令状は却下されたのだ。連邦のエージェントは10月に令状を申請しており、そちらは許可された。
メンチによると、それは2つのロシアの銀行、Alfa BankとSVBからの通信の為であった。この銀行に対する令状は、トランプ関係者を含めてアメリカ市民を直接ターゲットとしたものではないが、FBIは、外国企業に対する令状を取得しても、実際の目標はアメリカ人に対する諜報であるという「ターゲットの入れ替え」と呼ばれるテクニックを使うことができたのではないかという推測もある。
他のニュースメディアでは、FISAの令状についてこれとは違った話が報道されている。
イギリスのBBCは1月に、2つの銀行の電子記録の傍受に対するFISA令状は6月と7月に却下されたと報じた。そして選挙の3週間前の10月15日に新しい判事によって許可されたと報道した。
その記事によれば、トランプと関係者の名前はFISA命令には記載されていなかった。しかし、事件に詳しい弁護士はBBCの記者、ポール・ウッドに3名のトランプ関係者がその令状の対象だと語った。
ガーディアンも1月に令状について報道した。このイギリスのメディアによると、令状の申請は昨年の夏に行われたが却下された。令状が10月に許可されたことは確認できなかった。
マクラッチーは、情報筋の1人がFISA令状は10月15日に許可されたと言っていると報道した。
ニューヨークタイムズはトランプが盗聴されたことを確認したのか?
ニューヨークタイムズの記事がここ数日、トランプの主張に対する更なる確証として広まっている。
同紙は継続中の捜査の情報は、電話盗聴によって得られたものだと報道していた。しかし、その情報を得るために誰の電話や電子機器が監視されたのかは明らかでない。
その監視で取り上げられた元トランプ陣営の職員はポール・マナフォートだ。ウクライナの元大統領である、ヴィクトル・ヤヌコーヴィチに対するマナフォートの活動についての捜査は昨年春に開始された
ニューヨークタイムズによると、マナフォートに対する監視活動に対するFBIの令状申請は却下された。しかしFBIはNSAに、マナフォートとウクライナの政治家とのやり取りについて「入念な捜査」を強制したのだった。
オバマ政権は何をしたのか?
先週持ち上がったもう1つの話が、オバマ政権下のホワイトハウスによって情報クーデターが実行されたとするトランプの説を生み出したのかもしれない。しかし、その報道は、トランプとその周辺に対する新しい監視を行ったというより、既に収集された情報を保護しようとする試みについて詳しく述べたものだ。(関連記事:オバマ政権がトランプのホワイトハウス移行を妨害した確証)
ニューヨークタイムズは、オバマのホワイトハウスが、最後の瞬間にトランプの捜査に関連する可能性のある情報を急いで保護しようとしたことを伝えた。また、職員はその情報を連邦機関の間に広めて、それが簡単に破棄されたり無視されることのないように機密レベルを引き下げたのだった。
その努力はオバマ政権にとって十分に不利なものであるが、その記事はオバマがトランプの電話を盗聴するように指示したという主張を支持するものではない。
元オバマ政権の人間は何と言っているか?
オバマ政権のメンバーは、オバマがトランプと彼の選挙陣営に対する監視を命じた事を否定した。
オバマ政権の副補佐官ベン・ローズは、大統領はFISA令状を命令できないと述べた。ジェームズ・クラッパー元国家情報長官は、日曜日に、トランプや彼の選挙陣営に対するFISA令状は発行されていないと述べた。(関連記事:クラッパー:トランプに対する機密令状はない)
クラッパーは、2013年に、NSAがアメリカ市民のデータを集めている事について議会に偽証しているので、全容を語るのを避けるように言葉に注意していたと見る向きもある。例えば、トランプや彼のアドバイザーのための令状が発行されていないというのは厳密には正しいかもしれないが、上で説明した「ターゲットの入れ替え」が使用された可能性もあるのだ。
クラッパーは、選挙前にトランプ陣営とロシアの間に共謀があった証拠は、自身の在任中には無かったと述べた。
ホワイトハウスは何をしているのか?
土曜日にホワイトハウス法律顧問のドナルド・マッギャンは、「我々にとってどのような選択肢が残されているか」を再調査する努力の一環として、あらゆる既存のFISA令状の追跡を試みていると報じられた。
マッギャンの調査は、今後見込まれる司法省の調査に過度の影響を与えると考える人々から批判を受けている。
ホワイトハウスの報道室は、トランプのツイートの嵐に火を点けたのが何であったかについて明確な答えを出していない。
ホワイトハウスのサラ・ハッカビー・サンダース報道官は、日曜日のABCニュースのインタビューで、盗聴に関するニュースを「報道したメディアは複数ある」と答えた。
上に挙げた記事について言及して「誰でもトランプ大統領のように行動します。この考えに至ってそれを口にしたのです」と答えた。
しかし、匿名のホワイトハウス職員は、メディアにブライトバート(とレビン)の主張がトランプのツイートの引き金になったと語っている。
FBIの反応はどうか?
ジム・コミーFBI長官は、トランプの発表に難色を示していると伝えられている。ニューヨークタイムズによると、コミーは司法省にトランプの発言を押し戻すよう公に求めた。コミーはFBIが法を犯したことをほのめかすトランプの主張に苛立っていたと伝えられている。他の法執行機関幹部は、FISA令状の見込みがトランプ関係者の捜査の強さについての期待を高めるのではないかという懸念があると語った。
そもそもFISA令状とは何なのか?
センター・フォー・デモクラシー・アンド・テクノロジーは、FISA令状とは何であり、犯罪捜査に使用されるような監視令状とどのように異なるのかについて説明している。
外国情報活動監視裁判所(FISC)の11名のメンバーがFISA令状に責任を持っている。それらは、「対象が外国の権力またはそのエージェントであると思われる確からしい理由」があるか、「監視が行われる施設がすべて外国の権力またはそのエージェントによって使用されている、または使用されようとしていると思われる確からしい理由」がある場合に許可される。
しかし、FISA令状のための確からしい理由の基準は極めて低く、FISCは要求に対してめくら判を押していると非難されてきた。
令状の申請が却下されることはほとんどないのだ。
ABCニュースによると、2009年から2015年までの間に10,700件のFISA申請が行われたが全体の内却下されたのは1件だけであった。
FBIの令状申請が夏ごろまでに却下されたという事実は、そのFBIの事件が確からしい理由のための、極めて低い裁判所の制限にも引っかかってしまうほどのものであったことを示唆するものとみなすことができるだろう。もう一つの解釈としては、裁判所がトランプ陣営の監視につながり得る令状を許可することで、選挙に干渉したとみなされることを警戒したということだ。
FISA令状は、典型的な犯罪で使われる令状とは異なる。タイトルⅢの令状には、犯罪が既に起きたか起ころうとしていることの確からしい理由が要求される。