<引用元:ザ・ヒル 2019.7.2>ジョン・ソロモン氏による寄稿
静かで捉えどころのない者が戻ってきて悩ませることがある。元特別検察官のロバート・モラーにとって、その1人はオレグ・デリパスカという名のロシア人億万長者かもしれない。
ロシア最大のアルミニウム帝国をかつて支配したオリガークは、今となっては済み間違いが証明されたトランプの共謀捜査における陰謀を企てたとされる国際的人物だった。
デリパスカは、ドナルド・トランプの失墜した選挙部長であるポール・マナフォートの、不満を抱えたビジネス上の元依頼人だった。また彼は、トランプ嫌いでクリントンを支援していた英国のスパイ、クリストファー・スティールの法的調査の依頼人でもあった。暇のある時には、FBIとその解雇されたアンドリュー・マッケイブ副長官の友好的な協力者であったこともあった。
そしてロシア共謀の狂乱の絶頂期に、デリパスカは、2016年の米国大統領選挙に干渉したことでロシアのウラジミール・プーチンに経済制裁を科すために、トランプ政権から制裁を受けた。
デリパスカは、ロシアの件で非常に多くのつながりがあったが、それも完了し、沈黙を破りつつある。そして彼の話すことは、7月17日の議会でのモラーの証言に影響を及ぼす恐れがある。
私との幅広いインタビューの中で、デリパスカは、1年以上前に私が法執行機関の消息筋から聞いていた話を裏付けた。彼は、初期のロシア捜査の中で2016年9月にFBI捜査官の聴取を実際に受けており、トランプ陣営が2016年の選挙を乗っ取るために、マナフォートを通じてモスクワと共謀しているという捜査局の説に強い疑問を抱いていると彼らに話していた。
「私は彼らに単刀直入にこう話した。『いいか、私は彼(マナフォート)の友達ではない。明らかに違う。というのも、(彼に対して)6か月か9カ月前に訴訟を起こしたからだ・・・。だが私はロシア人なので、どんな理由でもロシアから来た者が誰でも彼に接近しようとして、私に意見を聞きに来ないということにとても驚くだろう』」と彼は話し、その日に自身がFBI捜査官に話したという内容をそのまま説明した。
「私は彼らに単刀直入に話した。私は彼がロシアの利害を代表しているとは全く思わない。それに彼がウクライナで最後の7,8年の間に何をしていたかも知っている」
ではなぜ、トランプ陣営の選挙中のロシアとの共謀をロシア人が否定したかどうかに関心を持つべきなのだろうか?
第1にデリパスカは普通のロシア人ではなかった。彼はプーチンと緊密に連携していたし、2009年にまで遡ってFBIに協力的だった。だから捜査官からある程度の信用を得ていた。
最も重要なこととして、デリパスカにFBIが聴取したことは、マナフォートの弁護士のケビン・ダウニングによるとそれが無実の証明となる可能性があったというのに、報道によればチーム・モラーからマナフォートの弁護士には全く伝えられなかった。マナフォートは当初共謀の捜査を受け、ロシアの件とは無関係の税金とロビー活動の違反で有罪判決を受けた。
それを怠ったことは、被告から無罪を証明する情報を隠したことで、いわゆるブレディ開示違反で上訴の門戸を開くものだ。
「最近ザ・ヒルが暴露した内容は、トランプの大統領選挙陣営とロシア政府の間の共謀疑惑に対する捜査に、ポール・マナフォートが含まれるのには正当な根拠があったという特別検察官事務所(OSC)の主張が間違いであることを証明している」とダウニングは私に話した。「この情報をマナフォート、裁判所、また国民に公開しなかったことは、OSCにはマナフォートを捜査する正当な根拠がなかったことを改めて確認するものであり、OSCにトランプの大統領選挙陣営とロシア政府の間の共謀疑惑を捜査する正当な根拠がなかったことを証明する可能性がある」
デリパスカがモラーの議会公聴会と関係する2つ目のことは、彼がFBI内部で最初に信頼を得た一連の出来事に関係している。
デリパスカは、彼が2009年から2011年にかけて、CIAの任務中に2007年にイランで捕らえられた元FBI捜査官であるロバート・レビンソン解放のための個人的な救出作戦に自信の2000万ドルの資金を費やしたという、私が昨年FBIの消息筋の話として報じた内容を認めた。
デリパスカは、FBIの要求で作戦のために費用を支払ったことを認めたが、当時のFBIというのはモラーの指揮下にあった。そして、当時前途有望な管理職でレビンソンの元同僚であり、その後ロシア共謀捜査で重要人物になったマッケイブが、彼に助けを求めた人たちのうちの1人だったと彼は続けた。
デリパスカはこう話した。「私に接触してきたのは、今や徹底的な調査の対象となっている人物――マッケイブだった」「彼は、彼ら(FBI職員)全員にとって重要なことだとも話した。それで私は彼らのことを信じたわけだ」
デリパスカは、彼が個人的に資金を投じた救出チームは、レビンソンの解放の実現のためにイラン人収容者との取引の一歩手前まで行ったが、取引はヒラリー・クリントンの国務省で暗礁に乗り上げ、断念することになったとFBIの指令役に告げられた。「ロシアの『手』と呼ばれる、まあどう呼ぼうとも国務省のロシア専門家たちが、『この男に借りを作りたくない』(と言った)という話を聞いた」とデリパスカは私に話し、レビンソンを解放しようという彼の個人的取り組みを、米国人は誰も好まないのだと思った、と続けた。
(略)
デリパスカの話は利益相反に関する疑問を提起する可能性を持っている。というのも、モラーのFBIは、モラーが特別検察官としてロシア疑惑の重要人物とのデリパスカのつながりを捜査する前に、個人的に資金を投じた救出任務という形で最初に贈り物を受け取っていたからだ。
そしてデリパスカの複雑な話には続きがある。彼の弁護チームは2012年に、デリパスカがロンドンで戦っていたビジネス上のライバルの関わる訴訟のための調査を行うために、元英国MI6諜報員のスティールを雇ったのだ。「ロンドンでの私に対する訴訟を支援するための調査プロジェクトだった。だが私の理解では、弁護士たちは彼を何らかの理由で信頼しており、彼はかなりの期間雇われていた」
けれどもデリパスカは、スティールが、何よりもプーチンとロシアの組織犯罪に関する情報を提供するためにロシア新興財閥をリクルートする特別計画について、FBIの仕事にも携わっていたことを知らなかった。
彼は、スティールが2015年9月の司法省当局者との会議に自分を招待したと話した。それは、米国入国のためのビザを得るために、長い間ロシア人が国務省との間で繰り広げていた戦いを支援することができるかもしれないという口実でのものだった。
「彼らは実際は、(ビザの)問題についての話は一切しない。他のことについて話し始める。『何か持っているか?名前を教えてくれ。実例でも何でも』と彼らは尋ねるのだ」とデリパスカは回想した。
彼はその後、スティールが最終的にフュージョンGPSを通じてクリントン陣営、そしてFBIの仕事をするようになり、現在は誤りが証明されたロシア・トランプ共謀疑惑を広めるようになったことを知り、衝撃を受けたと述べた。
デリパスカがこの時点で米国のインタビューを受けようという気になったのには、明らかに動機がある。彼が訴えを起こしているのは、トランプが彼に科した制裁を覆すためだけでなく、国務省が15年に渡って通常のビザを受けられないようにしてきたことに挑むためであり、それは米国のチャーム・オフェンシブ(魅力攻勢)に根差すもののようだ。
彼は最近裁判に勝ち、自身に対するビザ発給を何年も拒み、制裁を科すことを正当化するために使われた証拠とされるものを国務省に提出させた。それは薄い情報源のファイルであり、ほとんどが本物の秘密情報のない古い新聞記事だったと彼は述べた。
それから私は、国務省で彼を中傷する人たちが課している最も広まっている疑惑について彼に尋ねた。つまり、彼が人生の早期にアルミ産業での権力を確固たるものとしていた頃、ロシアのマフィアとつながりを持ち、批判者を殺したか殺すようけしかけた、というものだ。
彼は即座に答え、裁判所が公開したファイルにはそうした直接の証拠は示されていなかったと指摘した。「証拠はない。議論すべきことがあるだろうか?私が25年前に誰かを殺したとして、犠牲者も、死体も、名前もないということがあるとあなたは信じるのか?」
インタビューの間、デリパスカが英語での言葉を入念に選択していたことは明らかだった。だが彼が2回だけ口にした言葉があった。1度はスティール文書の主張するトランプ・ロシア共謀に対する回答の時で、それからもう1つは彼に制裁を科すのに使われた申し立てに対して答えた時だった。「たわごとだ」と彼は主張した。
今度はチーム・モラーが同じ質問に答える番だ。